矢野さん

 その顔は少し嬉しそうに見えるのは……気のせいだろうか……。


「お疲れ様です。すいません急に。あのこれ、食べてください」


 そう言うと、矢野は持って来たケーキ箱を俺に差し出した。


「あ、ありがとう……」


 箱を受け取ると「じゃあ……」と言って、早々にその場を去ろうとした時――。


「橘さん」


 会社に入ろうと歩きだした俺に矢野が声を掛けてきた。


 話しかけないでくれー……。


 そう思いながらも、ゆっくり振り返り矢野を見る。


「……なに?」


「あの……私……」

 そう言うと、矢野は言葉を詰まらせ少し目を伏せた。


 矢野の重々しい雰囲気になんだか胸がざわつく――。


 なんだよ……早く言えよ……。