矢野さん

「はい」


『あ!……あ、あの……お疲れ様です……』


 聞こえて来たのは若い女性の声。


 その声を聞いた事があるように思うが、電話越しだと声がこもっていて誰だか分からない。


「ごめん着信名見てなくて、誰?」


 椅子に深く座って右手で携帯を耳に当てたまま、左腕を伸ばし背伸びをする。


 たまに以前付き合っていた女達から掛かって来ることがあった為、その電話だと思った。


 だが、聞こえて来た名前は――。


『……矢野です……』


 え!?


「矢野さん!?」


 驚いて勢い良く椅子から立ち上がると、コマが付いた椅子はそのまま後ろの席へガシャン!と激突する音が聞こえた。