矢野さん

 次の日――。


 いつもの様に定時になると、みんな仕事を終え帰り支度を始め出す。


 俺は明後日までに企画書を提出しなければならず、残業をして帰ろうと思っていた。


「橘残業?」


「ああ。仕事持って帰ってもたぶん進まないから」


 赤崎にそう言うと、ヴーヴーと机に置いた携帯が振動した。


 長い振動に、それが電話だと気付き携帯を手に持つ。


「あんまり無理すんなー。じゃあな」


「ああ」


 帰っていく赤崎にそう言うと、未だ鳴り続けている携帯に出た。


 その時、着信名を確認しなかった事を俺は後で後悔する。