矢野さん

 顔は前を向いていても、後ろにいる矢野が気になって背中に神経が集中する……。


 早く二人から離れたくて足早にこの場を去った。


 トイレに着くと洗面台に両手を付き、ハァーとため息を吐きながら項垂れる。

 まじか……。こんな所で矢野と会うなんて……。
 

 しかも、男付き……。


 「矢野」という言葉に少しは反応しなくなって来たかと思ったのに、本人を目の当たりにするとそれはあっさりと覆された。


 1ヶ月掛けてようやく少しはそう思えたのに、一目見ただけで振り返された痛みに嫌気がさす。


 まだまだ想いは強いってことか……。

「あー……めんどくせー……」


 項垂れたままそう呟く――。


 せっかく気持ちが薄れて来てたのに、一目見ただけでどんだけの威力発揮してんだよ。この1ヶ月返せ……バカ矢野……。