矢野さん

 土地勘のない道。


 自分がどこを走っているのかわからない――。


 それでも必死に男を探し回っていると、見覚えのある後ろ姿が見えた。


 矢野から金を受け取り去っていくあの後ろ姿。間違いない。


 あの男だとわかると夢中で追いかけた。


 その時、俺の頭の中はもう何も考えれなくなった――。


 ただ矢野の泣いている悲痛な顔で一杯に埋め尽くされた。


 それからどうしたっけ――……記憶が曖昧だ……。周りの音も聞こえない……。


 分かるのは初めて人を殴る手がこんなにも痛いと言うこと。