矢野さん

 矢野は険しい顔をして俺と並ぶように立つと、持っていたお金を男に投げつけた。


 束になったお金が男の胸辺りに当たると、ヒラヒラと数枚の千円札がゆっくり落ちていく。


「矢野さ――」


「それあげるから早くどっか行って!!」


 瞳に涙を浮かべて男を睨み付けながら矢野は怒鳴った。


 男は落ちたお金にゆっくり手を伸ばす。


「あーあ。お金はもっと大事に扱わないと駄目だよ遥」


「お前――!!」


 男の言葉に思わず殴りかかろうとした時、矢野に腕を掴まれた。


「矢野さん!!」


 腕を掴む矢野を怪訝な顔で見る。


「いいんです……」

 俯いて今にも泣きそうな顔をする矢野。俺の腕を掴んでいる手は微かに震えていた。