矢野さん

一緒に居たくないんだと思ったのに……。

 俺を気遣ってくれての事だと知ると、少し嬉しかった。

 あの矢野が……。

「……行こ」

 矢野にそう言うと、止めていた足を再び動かした。

「橘さん」

 呼び止められ矢野に振り返る。

 困った顔の矢野。

 でもどこか嬉しそうで――でも瞳には涙が浮かんでて……。

「ありがとうございます……」

 軽く頭を下げる矢野に思わず釘付けになった。

 律儀な奴――。

 嫌いな奴に頭下げんなよ。

 俺はただ――。

 ただ……危ないから……送るだけだし。

 それからまた二人並んで矢野のアパートへ歩いて行った。

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