「じいちゃん夢でも見てたんじゃないの?ばあちゃんいなくなって寂しいのは俺も同じだけど…」

そう言いながら僕は片手をじいちゃんの肩に置き、顔を覗き込む。

それはただ穏やかに、ばあちゃんの事を想って笑っている様に見えた。

「まあ…誰も信じてはくれないだろうなあ」

きっと僕や他の人に何を言われても、じいちゃんはためらいもなく言うのだろう。

「けれどわしは、それが例え夢でも幻でも、ばあさんにまた会えたことを幸せに思うよ」

優しく笑うその顔に、きっと偽りなんて何もなくて。

「ばあさんが死んだ後も、ずっと会いたいと願っていたよ」

じいちゃんはそっと写真を手に取る。

「わしのわがままを聞いてくれたんだろうなあ。死んだ後も、迷惑をかけてしまった」

なんの汚れもない一途で綺麗なものが、じいちゃんの頬を伝う。

「本当に…本当に…奇跡の様な時間だった…。もう会えないと思っていたからなあ…。わしの前にまた姿を見してくれて、本当に、嬉しかった」

写真を握る手に、力が入っていた。

「ありがとなあ、ばあさん。わしもお前と生きれて、最高の人生だったよ…」

写真に写る若き日のばあちゃんの顔をそっと撫でながら、優しく語りかけている。

それが嘘かホントかなんて僕には全くわからない。
けれど今じいちゃんは、ばあちゃんを想って泣いている。

愛した人にもう一度会えた喜びを心から噛み締め、感謝している。

「美代子、本当に…ありがとう」

長い間連れ添った二人にしかわからない物語を、ひとつひとつ思い出しているのだろう。

「わしもずっと、愛しているよ」


二人の時間を邪魔しないように、僕は静かに家を出た。