扉の向こうは、また一面の花畑でした。



「戻ってきてしまったのかしら。」


女の子がそう思っていると、遠くに誰かが立っているのが見えました。



「お母さん…?」


女の子が急いで駆け寄ると、振り向いたのは見知らぬ男の子でした。



「ようやく会えた」


男の子はそう言うと、女の子の前にひざまずき、手の甲にそっと口づけをしました。



「どなたですか…?」


女の子が尋ねると、男の子は立ち上がって言いました。


「申し遅れました。私は、隣国の第一王子です。」


そして、少し恥ずかしそうに言いました。


「この度は、貴女に婚約を申し込みたく参りました。」



「どういうことですか…?私はお母さんを捜してここまで来たのですが…。」


女の子が困った様子でそう言うと、王子は申し訳なさそうに言いました。


「お母さまのことはご安心下さい。

すでにお城へお招きしております。

今回のことは、全て私が貴女に会いたいがために行ったことなのです。」


男の子は真剣な顔つきで言いました。


「前に一度、貴女の国の王様に挨拶をしに伺ったことがありまして、その帰りに働いている貴女を見かけました。

お日さまの様に輝く貴女の笑顔に、私は一目惚れしてしまったのです。

その後、従者に貴女のことを調べてもらい、家を知ることは出来たのですが、私は王子…なかなか自由を許されません。

そこで森の住人達に協力して頂いて、人目につかない森でパーティを開き、貴女を招くことを思いついたのです。

しかし貴女はお母さまを気遣い、パーティにいらっしゃる様子がない。

なのでお母さまには事情を説明し、パーティが終わるまでお城に居て頂くことになったのです。

そろそろ小人が、お母さまを連れて来るころでしょう。」



王子が話し終わると同時に、王子の横に扉が現れ、中から小人に連れられた母が出て来ました。



「お母さん!」


女の子は母に駆け寄り抱きつきました。



母は女の子に言いました。


「突然いなくなってごめんなさいね。

でも私は、貴女に幸せになって欲しかったの。」



女の子が王子の方に向き直りますと、王子は言いました。


「私と結婚して頂けませんか?」



女の子は微笑んで言いました。


「喜んで。」



こうして、親孝行で働き者の女の子は王子と結婚し、末長く幸せに暮らしました。