二重螺旋の夏の夜

「兄ができたみたいで」

あれ、兄…?

アニ…?

ANI…。

「……」

「あっ、すみません、そんな失礼なこと…」

「いや、全然。むしろ俺も嬉しいから」

口はそう動いたものの、呆然という感覚をこんなにも体現しているのはいまだかつて俺しかいないのではないかと思う。

「あの、ごはん…是非お願いします」

「わかった。あ、ごめん、すぐにかけ直すね」

井口がいい加減にしろ、とでも言いたげな顔で舌打ちをし始めたのもあって、一旦電話を切った。

「神崎、何だって?」

すかさず飛んでくる質問。

淡々と、味気なく言葉を返す。

「俺のこと、兄みたいだって…」

「くっ…」

「?」

「ぶっ、ふぁははは!」

井口は馬鹿にしたような表情で、吹き出して笑いやがった。

「どんな笑い方だよ」

「ざまぁ!」

「うるせぇ!」

俺だって笑いてぇよ!

何なんだよこの状況は!

…でも食事断られなかったし引かれてもなさそうだし、好転するのを少しは期待してもいいのではないか、とも思う。

気持ちが全部聞こえてしまっていても。

兄みたいだと思われていても。

希望はある、と信じたい。

そうだ、とりあえず次に会う予定を決めなければ。

そこからゆっくり、進んでいければいい。

手帳を開いて再び電話を手に取ろうとすると、井口が小さく「含み笑いキモい」と言ったのが聞こえた。



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【おまけ】

「ちなみにさ、俺らの会話ってどの辺から聞こえてた?」

「すみません、周りの音が大きくて全然何言ってるのか聞こえてなかったんですよ」

「えっ!?あ、あぁ、そう…」

(つまりは俺が井口に恥を晒してしまっただけってことか…!)