二重螺旋の夏の夜

「もしもし神崎ー、聞こえてた?今早見と代わるから」

え?

…え?

「待って待って!ちょーっと待て!…いつから!?」

通話中のまま伏せて置いておいただと!?

「早見がトイレから戻ってきた時から」

「何やってんのお前!」

ほぼ全部聞かれてるじゃん…!

「だって神崎が心配してたんだもん。お礼を言ったら早見に困った顔をされて、自分が何かやらかしたかも、って」

さっきまでの真剣な顔はどこへ消えたのか、井口は意地悪そうなしたり顔で画面を俺に向けて見せてくる。

そこには『通話中 神崎志名』の表示。

あぁもうどうしてくれるんだよ井口お前!

「どうせわたしが神崎に会ったらうっかりしゃべっちゃうんだから、いいでしょ」

「いやいや、うっかりじゃねぇよ!言わないように努力しろよ!」

俺があの時言うのをためらった意味が完全に失われた…。

「うるせえなぁ、いずれどうのこうのなるんだったら早いか遅いかの違いじゃん。わたしの目の前でお前にそわそわされるのもうっとうしいんだよ」

俺は今日最大のため息をついた。

絶望というか脱力というか途方に暮れるというか、とにかく肩を落としてうなだれることしかできない。

「…お前何、中学生みたいな余計なお節介焼いてんだよ、いらねーよ」

ようやく絞り出した声は自分でも驚くほど頼りなかった。

「あんたこそ中学生みたいな初々しい恋してんじゃねぇよ、気持ち悪いわ」

「は!?」

「早く」

顔を上げると井口が電話を差し出してきた、と言うよりは押し付けてきた。

力なく受け取って耳に当てる。

一度、下唇を強く噛んでから、意を決して電話の向こうの相手に話しかけた。