二重螺旋の夏の夜

このタイミングで自分の名前が出てくるなんて思ってもみなかった。

神崎ちゃんが、そう言ったのか…。

「悔しいのよ、わたしじゃなくてあんただったってことが。何もしてやれなかった自分が腹立たしい」

井口は眉間にしわを寄せてイラついたような表情をした。

「神崎は自分から助けを求めるのが下手だから、あんたが手を差し伸べてやったんだってことはわかってる。…目的は何なの?」

「目的?」

井口に主導権を握られ、気が付けばすでに単語で聞き返すことしかできなくなっていた。

「あんたが神崎をかわいがってるってことは知ってる。でもそれはわたしの後輩だから?わたしへの対抗心?それとも単に年下の女の子だから?優しそうで気弱そうだからすぐに落とせるとでも思った?」

「ちょ、ちょっと待てって」

「今までの遍歴を聞く限りじゃ、上手くいった例なんて一つもないじゃん」

そりゃ上手くいってたら今頃フリーじゃないはずですからね…。

「弱ってるところに付け込んで株上げようとか、軽いノリみたいな気持ちなら即刻手を引いていただきたい。わたしにとって神崎は大事な後輩なの」

つまりこれは、俺にとって神崎ちゃんはどういう存在なのかを聞かれているのであり、それがこのお方の意にそぐわない回答だった場合、勧告を受ける、それどころか多分制裁を食らう羽目になる。