二重螺旋の夏の夜

トイレを済ませて席に戻ってくると、井口は操作していた手を止めてスマートフォンを下向きに机の上に置いた。

「さーて第2ラウンド始めますか」

「俺らいつから戦ってたの」

とりあえず的確であろうツッコミを入れておく。

この時点で口を挟む間合いをもらっておかないと、あとで井口がヒートアップしたときに収拾がつかなくなるのだ。

「わたしはね、怒っているのですよ、早見さん」

きたな。

しかもわざと丁寧語を使ってくるあたり、相当怒ってるらしい。

「どういったことに、でしょうか」

努めて穏やかに返す。

井口は少し目を伏せて話し出した。

「確かに今の部署に移って2年目、結構手いっぱいで、それまでみたいに神崎を十分に気にかけてやれなくなった。でもわたしが初めてちゃんと面倒見た後輩だからそりゃ1番かわいいし、神崎に一番頼られてるのは自分だっていう自負もあった」

井口は去年の異動で、今までの営業二課とは関わりも薄くフロアの場所も遠めの部署に配属になった。

一方俺はというと相変わらず総務部にいて、どこの部署にも割と出入りしている――もちろん営業二課とも。

言ってしまえば、俺の方が会う回数は多かったということになる。

「おとといから有給取ってるでしょ、あの子。最近ちょっと体調悪そうだったから、何かあったのかと思って電話したのよ、昨日」

「…それで?」

「『早見さんに助けていただきました』、だって」

枝豆に伸ばしかけていた手が止まった。