二重螺旋の夏の夜

この同期のおっさん、今日はどうしても色恋沙汰の話をしたいらしい。

さては年上外人彼氏のニコラスと何かあったな…。

「ほれ、話せ、前の女にふられた理由」

ところがそんな素振りは全くなく、今度は箸でししゃもをつついている。

俺は1つ、深いため息をついた。

この話は前にしたことがあるのだ。

「え?まだ引きずってんの?」

「いやいやいや」

もう3年も前の話だし、その彼女とは出会いも別れもあっさりだった。

「で?何て言われたんでしたっけ?」

「大したことは…」

「で?」

井口がテーブルに肘をついて身を乗り出してきた。

なぜ今日はこんなにもかわすことが許されない状況なのか理解しがたい。

どうせ知っていることだと諦めて、仕方なく口を開く。

「誰にでも優しくするのが嫌だったんだとさ」

泣きながらそんな理不尽なことを言われて、一気に冷めてしまったそのときの自分を思い出す。

お互いに若かったなぁ。

そんな元カノも、その後付き合ったワイルド系の彼氏と先月結婚したらしい。

そういうのが好みだったのかと、何となく頷ける。

…と、そんなことはどうでもいいとして、俺が腹を割って恥ずかしい過去を晒したというのに、なぜだか井口はむっとした表情をしていた。

「あれっ?じゃあ『細かすぎて…』みたいなのっていつだっけ?」

「『神経質なところが我慢できない』ってやつ?」

「そう!それ!」

あぁ、そっちが聞きたかったの…。

それ大学時代の話だから昔話レベルで前の話ですよ…。

「何で付き合ったの?」

井口はほとんど空になった俺のおちょこに冷酒をつぎ足し、髪を耳にかけてから頬杖をついた。