「はーやーみー」

「うわ何」

いつもの居酒屋に入ると、井口がにっこりと笑って出迎えてくれた。

しかし声がものすごく低い。

…怖い。

「あんたこそ何なの、わたしのかわいい神崎と何があったの」

「別に何も…」

「さあ飲め!そして吐け!」

井口は責めるような口調でそう言うと、半分くらいビールが残っているジョッキを俺の目の前に押し付けてきた。

これを断るとあとあと面倒だというのが目に見えていたので、諦めて立ったまま一気に飲み干す。

すぐ真後ろに座っていたおじさんに「お!兄ちゃんいい飲みっぷりだねぇ!」とへにゃへにゃとした笑顔を向けられて、俺は苦笑いをした。



井口とは会社の同期で、よくこうして2人で飲みに行ったりする。

ほかに十数人いる同期入社のやつらはみんな真面目だったり控えめだったりと、見たところあんまり酒の席が好きではないらしい。

何回か同期で飲み会を開催してみたけど、結局楽しそうにしていたのは俺と井口しかいなくて、それなら無理やり誘う必要もないかということで、2人だけで飲みに行くようになった。

要は馬が合う、というやつだ。

話すのは仕事のこと、社内の人間関係のこと、社会情勢のこと、プライベートなことなど様々で、その大体において捉え方や考えがお互いに似ている。

多分同じような感覚を持っているんだろうなと思うし、だからこそ何を言っても大丈夫だろうと信頼もしている。