「それじゃあ家具とかは全部いらないよね。リサイクル業者やってる知り合いに、引き取ってもらうよう頼んどいたから」

「洋服もそんなにいらないんじゃない?仕事に行くときのやつだけにしなよ」

「本?場所とるものはあんまり置けないかもよ」

「DVDも最近見てないんでしょ?見たいときに借りればいいよ」

同居とはいえ転がり込む身であるので、できるだけ持ち込むものは減らそうと考えていた。

家主に盾突くようなこともしたくなくて、わたしは言われるままに処分をしていった。

元々物は少なかったのだが、最終的にボストンバッグ一つに収まるほど物がなくなってしまったときはさすがにびっくりした。

部屋にあったのは社会人になってから買ったものばかりだし、わたしはあまり物に執着がない方だけど、一つひとつの物に多少の思い出はある。

初任給で買った水色のワンピース、お気に入りの雑貨屋さんで買った木製のイス、あのサンダルはかわいい店員さんに絶賛されて買ってしまったもので、それからあのコートは寒い日に着る用だって決めていた。

手離した物には働き始めてから過ごしてきた日々が染みついていて、自分はその時間ごと一緒に捨ててしまったんだと思うと、悲しみがさざ波のように静かに押し寄せてきた。