「………」
忍は、何も言わず握った手を強く握る
マンション前の長い坂は、薄暗い外灯だけで誰も通らない
たまに車が通るだけで静かに時が過ぎるのを感じて私まで息が詰まる
「なぁ、原田…」
「………」
チラッと私を見つめ薄気味悪く笑う大川
その瞬間、怖さに耐え切れず彼の背中に隠れた
彼の背中は私をすっぽり隠す
「原田…その女、俺にくれよ」
…………
…………
ん?
今、何て言った?
この人…何て言ったの?
あまりに突然の言葉に理解出来ず固まる
「いいだろ?一つぐらい俺にくれても…」
「………」
ハァ〜とため息つき忍は頭をかいた
「何?くれんの?」
「バッカじゃねぇの?やるわけないじゃん。しかも渚は物じゃねぇんだから…」
冷静に対処する彼
“やるわけないじゃん”
すごく嬉しい
彼の私への真剣さが伝わり涙目になる
でもこの状況のせいで現実に戻される
「マジ、お前のそういう所がムカつくんだよっ!大した実力もねぇくせに、人の仕事横取りしやがって」
「!!」
大川の腕が振りかぶり一気に忍の顔をめがけてきた
し、忍っ!
危ないっ!!
