ここにいるよ



「…っ……」

必死に走る

いつもよりも夢中で

涙を拭いても拭いても流れ落ちる為に前が見えない


涼子さんの声が耳にまとわりつく


耳を押さえても私の中に侵入して心を掻き乱す


「おいっ!森村っ!」

敷地から出ようとすると聞き覚えのある声がして振り返れば心配そうに顔を覗いてくる一樹に腕を掴まれた

「…かず…き…」

「なんかあったか!?」

一樹の声が優しくてより一層涙が溢れる


で、でも!!


「な、何でもない!」

「おっ、おい!」

それどころではなくて、掴まれた手を勢いよく振りほどき逃げ出した



「……っ……」


声にならない声がもれる


何でこんなにも悲しいんだろう…


忍は私の特別になったのにどうしてまだこんなにも不安なんだろう


ドーンと構えていられないんだろう


改めて自分の弱さに気付く


「……しの…」


彼女の気持ちには気付いてたはずなのに何でこんなに動揺しちゃうんだろう


私…最低だ

嫉妬で彼から逃げ出すなんて


片思いの時はどんな事があっても信じるって傷つかないって思っていたのに何一つ出来てない



でもキスは特別なんだよ

誰ともしていいって訳じゃないんだよ


例え、不本意だったとしても忍にはしてほしくなかった


私以外とは


「……っ…」


忍のバカ

忍なんか

嘘でも嫌いとは言えない自分が悔しくてせっかくデートの為につけたピンクのリップをゴシゴシ拭き取った




忍なんか……

忍なんか……






それでも大好きなんだから悔しいよ


忍………