「あー恋して結婚してえ」
古びたエアコンがガタガタ笑ってるように聞こえる。
もう28だし、仕事も先月辞めた。
人生の底辺だなと痛感する度に
『ニート』という単語がしっくりくる。
唯一出会い系サイトで女の子と話しをする位しか楽しみがない。
東京にきたら何でも手に入ると思っていたが、何処に行ってもつまらないし仕事も長続きしない。
貯金だけは50万ほどある、母子家庭で育ててくれた母親が捻り出してくれたものだ。
スーパーで買い物に出かけるのが唯一の外出パターン。
友達もいないし、働く気力もない、じりじり減る貯金通帳を見て焦るけどすぐ熱が冷めてしまう。
タバコを吸いながら出会い系サイトで女の子を探す。
自慢じゃないけど心理学もかじってよく人を見てきたせいか僕は“頭がいい”と思ってる。
それで東京で成功しようとしたけど、何にも役に立たなかった。
役に立つといえばこの出会い系くらい、悩みを聞いて解決してあげればだいたい抱かせてくれる。
しかし、今日は一向に捕まらない。
「このアプリも終わりかぁ、次の探すか」
僕はいつも新しいできれば無料のアプリを探す、女の子を落としやすいからだ。
だが、もう出会い系アプリはやり尽くしてしまっている。
少しだけ、有料のアプリに興味が湧いた。
そして有料アプリの一覧を出した、とても金出してまでやりたいアプリなんかない、ゲームでもなんでも興味をそそるものがない。
人気がなさそうな下の下のアプリまで探してみる。
するとケータイを触る指が止まった。
「100万円のアプリ」
な、なんだこれ100万円儲けるための成功者のやり方みたいなやつだろうか?
説明書きには今日だけインストール可能と書いてある。
内容を調べようとそのアプリをタップすると、説明が書かれていない。
すると入力していないのにインストールが始まりだした!
「な!なんだよこれ!止まれよ!」
焦って1人言を叫ぶが、10秒もたたないうちにインストールはすぐ終わった。
少し呆然とした後、とりあえず内容見て見た。
いくらかかるんだろうか?
画面は真っ暗だ…
やられた、絶対これウィルスか詐欺だ。
髪をボリボリかき、とりあえず日差しのカーテンを閉めて厚着をして珈琲を入れる。
いくら位するんだろうか、1000円以内だといいのだけれど。
すると真っ暗な画面からいきなり着信のコールが出た。
アプリから着信?いやまて、そもそも誰から?
詐欺の人からだろうか、怖い人だったらどうしよう。
僕は着信が鳴り止むのを待ちタバコに火をつけながら緊張で手汗を掻いた手を寝巻きのズボンにゴシゴシと拭いた。
着信は止むことがなく、タバコを吸い終わっても鳴っていた。
唇を少し強く噛んで手に取り、意を決して電話に出た。
「この度は100万円のアプリご購入ありがとうございます。一週間後に渡辺優様の御宅に徴収に参ります」
ボーカロイドの音声でとんでもない事を言ってきた!。
100万円も取られるのか!?詐欺だ!
なんで名前知られてるんだ?住所もバレてるのか!?
ボーカロイド声は続ける
「対しまして、ケータイを見て貰いますと、只今マイナス100万円と表示されておられるはずです。」
ほんとだ、表示されている。
「ちょっと待ってくれ、会話はできる!?」
「はい、ご質問があればどうぞ」
「これは取り消せないのか?ダウンロードは自分の意思ではしてないぞ!」
「キャンセルは不可です、これから説明を致しますのでまず理解してからの質問をお願いします」
「これは100万円騙しとられるだけの詐欺アプリだろ?警察に行く!」
ボーカロイドの声は淡々と続ける