「ナツ……」
旬も奈津美の発言が意外だったのか、目を丸くしていた。しかし、すぐにその目を細めてヘラッと笑った。
「うん!」
何に対しての返事なのかは分からなかったが、旬は嬉しそうに、大きく頷いた。
……こういうところに弱いのよね。
奈津美は自分でも呆れるくらいの自覚があった。
やっとのことで目当ての靴屋に辿り着いた。
ここまでの道のりが長かった気がする。
「あ、閉店セールやってんだー」
旬の視線は、奈津美の目当てのレディース靴の店の前にある、メンズ靴の店だった。
「旬、見てくる? あたしがこっち見てる間」
奈津美はふと思いついて言った。
「え? いいの?」
「うん。あたし、時間かかるかもしれないし、いいよ」
「んー……んじゃ、行ってこよっかな」
少し考えて、旬はそう言った。
「うん。じゃあ、後でね、旬」
「うん。行ってくる」
軽く手を振って、奈津美と旬は別行動することとなった。
よし。これで少しの間はゆっくり買い物できる。
向かいの店に入った旬を見届けて、奈津美は息をついた。
正直なところ、さっきのは口実に過ぎない。
もし一緒に靴屋に入って、さっきのように余計な買い物をさせられたらたまらない。
その為に、わざと旬を遠ざけたのだ。
別に悪気はないからね、旬。
心の中で旬にそう言い、奈津美は店の中に入った。
パンプスが並んだ棚を見て、奈津美は気に入るものを探す。
地味過ぎず、派手過ぎず。どんな服にでも合わせやすそうなものがいい。
と、探していると、丁度奈津美の好みのものが見当たった。
黒の革素材で、五センチぐらいのヒールの、ストラップのついたパンプス。
淵にそってゴールドのラインが入っていて、それが派手過ぎず地味過ぎずのアクセントになっている。
形としてはよくあるデザインだけれど、奈津美にとってはストライクの好みだ。


