旬の部屋の洗面所にて。


 あれ?

 歯を磨こうと、コップにさしてある歯ブラシを見て、奈津美は首を傾げた。


 もう広がってる。


 自分のピンクの歯ブラシのヘッドが、少し広がっている。

 この間替えたばっかりだと思うんだけどなぁ……


 奈津美の記憶の限りでは、先々週に替えたはずだ。

 旬の部屋に置いているのは、まだ2、3回しか使っていないはずなのに……


 奈津美は、そんなに力強く磨いたりしないので、何回か使ってもほとんど広がらない。


 実際、奈津美の部屋の奈津美の歯ブラシは、綺麗に使われている。


 それなのになぜこの歯ブラシはこんな状態なのか。


 もしかして、保管状態のせいなのか……


 そう何の根拠もないことを思い、奈津美は旬の歯ブラシを見る。


 しかし、旬の歯ブラシは、奈津美のものほど広がっていない。


 むしろ、旬の歯ブラシの方が綺麗なくらいだ。


 じゃあ何でこんなに広がってるの?


 奈津美は首を傾げて考えるが、何もそれらしいことは思い浮かばない。


 ……まあいっか。


 分からないことは気にせずに、奈津美はその歯ブラシを濡らして歯磨き粉をつけた。


 奈津美が真実を知るのは、それから少し後のことだった。




~END~