「旬。もう遅いから今日はそろそろ切ろうか」
ちょっと気を遣いながら、こっちから切り出す。
「え! ちょっ……ちょっと待って!」
旬が慌てた声で言った。
「あと一分……いや、五十秒! 五十秒待って!」
は? 何で五十秒?
時計を見てみると、もう十二時……ほぼ十二時だ。
アナログ時計だから細かい時間は分からないけど……このタイミングだと、日付が変わるカウントダウン?
でも何で?
「……ねえ、旬。何かあるの?」
分からないから素直に聞いた。
「えっ……と、うーん……」
旬は言葉に詰まっている。
「じゃあ、何だと思う?」
今度は聞き返してくる。
「え……何って……」
いきなり聞かれても……
とりあえず、こんな中途半端な時期だから、公の行事じゃないことは確かだし……
「あ、もしかして、旬君の誕生日?」
そういえば、あたしは旬君の誕生日を聞いていなかった。
それでもしそうなら、すごく申し訳ないことしちゃったってことだけど……
「うーん。違うなあ……。因みに俺、誕生日は十一月二十二日だよ。いい夫婦の日。覚えといてな」
「う……うん」
なんだ、違ったのか。
「あ、そういやナツの誕生日はいつ?」
ついでに思い出したようで、旬君の方も尋ねてきた。
「十月三十日……」
「十月三十な。おっけ。覚えた」
なぜかこのタイミングで誕生日の教えあい。
「んでナツ、分かった?」
「えっと……」
この流れで分かるわけないでしょ。……とは、流石に口に出して言えなかった。