旬と付き合い始めて数日が経った日の、旬との電話。


「……でさ、そいつ、かっこつけてたくせに店出てく時、自動ドアに挟まったんだよ。

俺、あんな衝撃的な瞬間初めて見たし。めちゃくちゃ笑いたかったけど、相手、客だし、そういう時に限って誰も見てないし……

もー、笑い堪えるの辛くってさー」


「ふふっ……それで彼女はどうしてたの?」


「すっげー気まずそうにしてた。それでも男の方は何事もなかったように気取ってるからまたおかしくて」

 電話の向こうの旬は、思い出し笑いをまた堪えているようだった。

 この数日、旬は毎日のように電話かメールをくれる。

 私からは、一回もないけど。だって連絡するようなことなんてないし。

 旬の話は、やっぱり面白い。多分話が上手いんだろう。


 私は相槌をうつだけでなんとか会話は続くし、かと言って一方的に話すだけじゃなく私も話しやすいように話題を振ってくれるし、結構助かってる。

 だけど、今日は何となくいつもと違った。


「あー。思い出すとホント腹痛えし」

 旬はまだ笑いが残っているようで、クククッという声が聞こえる。


「そこまで笑ったら失礼でしょ。あくまでもお客さんなんだから」


「そうだけどさー。ナツだって絶対アレはウケるって。暫くネタにできるし」


「そう?」


「うん。……」


 あ、まただ。


 さっきからこんな感じ。

 普通に話をしていて、ふと旬の方から話題が途切れる。


 いつもなら、話題を変えて、延々と話し続ける感じなのに。


 いきなり話が途切れるもんだから、こっちが

「どうしたの?」

 と聞くと

「何でもないよ」

 と言って、また話し始める。



 さっきまではそうしてたけど、もう十二時になる。もうかれこれ三十分以上話してる。


 そろそろいいかなぁ。