「でも、これは似合わないよ。あたしには」

 奈津美は、奈津美より嬉しそうな旬を見上げて言った。


「えー! 何でー?」

 旬は奈津美の反応に意外そうに返した。


「だって……似合わないもん」


 好みで言うと、本当はかなり好きだが、それでも自分が可愛いと思う服が似合わなかったりする。


 奈津美の場合、ワンピースがそうなのだ。

 奈津美は胸があるために、ワンピースを着るとどうしても太って見えてしまうのだ。

 胸下で切り返しがあるデザインのものならばまだましなのだが、逆にそれは胸を強調し過ぎてしまうので好きじゃない。


 ワンピースを一着も持っていないわけではないのだが、着るときは必ず上に何かを羽織ってごまかすようにしている。それでもあまり着ることなんてないのだ。


「絶対似合うって! 俺の目には狂いはない!」

 自信満々の様子で旬は言う。


 確かに、奈津美の好みを押さえているという意味では狂いはないが……



「何かお探しですかー?」

 横から甲高い声で話かけられた。

 この店の店員らしい。店の外だが、こんなところでずっと立っていたら声もかけられるだろう。


「宜しければご試着だけでもいかがですか?」

 店員の方は、二人がワンピースのことを話していたのは分かっていたらしく、笑顔で勧めてくる。


「だって。ナツ、着るだけ着てみたらいいじゃん」

 旬も笑顔を奈津美に向ける。


「えっ……」


 ちょっと……店員は試着だけとか言って買わせるつもりなのよ!? そんな簡単な手に乗らないでよ!


「なっ?」

 笑顔の旬に対して思ってることは言えず、奈津美は言われるままに店に足を踏み入れることになった。