「結局さ、ナツはいつもと変わんないことしててさ。俺もいつもと変わんないでナツにしてもらいっぱなしでさ」

 何だか、電話の向こうで拗ねる旬の姿が目に浮かぶようだった。

 一体どうずれば機嫌が直るか。


「……そんなことないよ」

 奈津美は旬に、できるだけ優しく言った。


「確かにあたし、寂しくはなかったよ。旬が居たから、寂しくはなかった」


 旬は過剰に心配しすぎて、正直ちょっとうっとうしかったけど。

 買い物も、レトルトの調理も、洗濯物を干すのも、全部心配でハラハラしたけど。


 それら全部は、無くてよかったとは思わない。

 無くたって決して困りはしないけど、無いほうが良かったとは思わない。


「ありがとね、旬」


 ……なんて、きっと体調がそこまで悪くなかったのと、今もう回復してるから思えるんだけど。

 それは旬には黙っておいた。


「……うん。ナツがそういうなら、良かった」

 さっきよりは機嫌が良くなったようで、少し嬉しそうな声が聞こえた。


「じゃあ、今度からいつナツが風邪ひいても俺が看病するから安心してな」


 その言葉に奈津美は絶句する。


「今度って……あたし、まだ病み上がりなんだけど……」

 というか、まだ微熱で完全に復活したわけではないのに。


「あ、そっか」

 奈津美の言ったことで、すっかり得意になったようだ。


「まあ、俺がいるから大丈夫だよってこと」


 本当は全然大丈夫ではないのだけれど。

 やっぱり、調子に乗るようなことは言わない方がよかったのだろうか。


 まあ、いっか。


 旬が電話の向こうで得意げにしてるのも、安易に想像できた。


 今日の旬は、奈津美のために色々してくれたから。

 だから、今日だけは、何も言わないでおこう。


 そして、今度からは意地でも風邪をひかないようにしようと、奈津美は誓った。




【風邪っぴき・奈津美バージョン END】