「旬、時間大丈夫? 送ってくれなくても大丈夫なのに……」
奈津美と旬は、コーポへと向かっていた。
「大丈夫。あとちょっとぐらいは余裕あるし」
「そう……」
コーポの前に着いた。
「ここまででいいよ。送ってくれてありがとう」
エントランスの前で立ち止まり、奈津美は旬に言った。
「いいの? 部屋まで送るのに」
「大丈夫よ。バイト前なのに送ってくれたから、これで十分」
少し疲れたけれど、それを悟られないように笑顔を作った。
「そっか」
旬はヘラッと笑った。
「それじゃあ……バイト頑張ってね」
「うん。……あ、ナツ」
突然思いついたように旬が何かを言おうとする。
「何?」
「あのな、今度のデートの時は、今日買った服着てきて」
旬は奈津美が持っているショップの紙袋を指さした。
「え……?」
奈津美は目を丸くしている。
「……何で?」
「可愛いし、すっげー似合ってるから」
旬は満面の笑みで答えた。
「……何それ」
奈津美は思わず苦笑した。
何だかんだいいながら、このワンピースを気に入ったのは、奈津美よりも旬だったのではないだろうか。
「ナツがそれ着てきたらー。ギューってしてあげるから」
旬はまるで今から奈津美を抱き締めるかのように、両腕を広げた。
「……何それ。私のメリットがないじゃない」
「えっ何で? 俺にぎゅっとされるんだよ? 嬉しくない?」
奈津美の反応が予想外だとでもいうように、旬は目を丸くして言う。
「……別に、いつもところ構わずにするじゃない。頼んでもないのに」
最後の方は、少し棘のある言い方で、奈津美は言い返した。
「それとこれとは違うってー」
旬は口を尖らせた。


