なんだか、すごく恥ずかしい。
自分の名前をフルネームで名乗るのは久しぶりだから?



もやもやする私に反して、坂木君は余裕の表情。



「雪乃さん……じゃなくて新堂さんって、もしかして冬生まれ?」
「そうだけど……、だから何?」



何を言い出すのかと思ったら、そんなつまらないことを聞いてどうするの?



きっと見上げた視界の端に、スーツ姿のぱらぱらと映り込む。コンコースへと新入社員たちが集まってきているらしい。



そんなことなど全く気にしない様子で、坂木君が満面の笑みを浮かべた。



「雪乃さん、かわいい名前だね」



ふわりと包み込むような穏やかな声。
どくんと胸が震える。



『かわいい』なんて……言わないで。



ぺこりと頭を下げて、坂木君が背を向けた。キャリーケースを引っ張って、軽やかな足取りで新入社員の群れへと消えていく。



私の頭の中に、彼の名前を刻んでおこう。かなり感じの悪い新入社員として。