「坂木君、ありがとう。全員揃うまで、この辺りで待ってて」



名簿に視線を落としたまま告げた。
真新しい名簿に初めてのチェックマークを記す手元を、ずっと坂木君が見てる。



もう、どこへ行ってもいいんだよ?
という意味を込めて言ったつもりなのに、坂木君は全然動こうとしない。



見上げたら、馴れ馴れしい笑顔の彼と目が合った。大きな丸い目がゆるやかに弧を描く。



「ねえ、先輩の名前は?」



柔らかで落ち着いた声で坂木君が問いかける。最初に挨拶を交わした時、見せてくれた爽やかな笑顔で。



「私は新堂(しんどう)、よろしく」



思いきり笑顔で返した。坂木君に負けないように、これが先輩社員の余裕の笑みだと見せつけるように。



ところが、彼に効果はなかったらしい。怯むどころか余計に目を輝かせて、



「新堂さん、よろしくお願いします。下の名前は?」



きゅっと口角を上げた。
笑みを湛えたまま首を傾げる。



「……雪乃(ゆきの)、新堂雪乃」



勝手に、口が開いてしまった。
至近距離で見下ろされてる状況に耐えられず。