「歌!また明日ねー」
「うん!バイバーイ」
本日も無事、授業を終えて今から部活動が始まる。
「よし、荷物片付けたし私も部活に行こう‼︎」
教科書を詰め込んだ鞄とハンドタオルを片手に二階にある音楽室へと進んだ。
私、西内歌は吹奏楽部でトランペットを担当している。
中学生の頃、この私が通う奈津江学園の体験入学で吹奏楽部の演奏を聴いた。
…一瞬で心を奪われた。
軽やかなリズムの中でも重心をしっかりと保ち、決して揺るがない。
そんな吹奏楽部の演奏に惹かれ、
この学校を受験したのだった。
レベルが高い学校であり、一か八かで受験したが、見事合格することができた。
それからは、もちろん吹奏楽部に入部し憧れだったトランペットを演奏することが決まった。
そんな懐かしい思い出に浸ってる間に音楽室、またの名を部室に到着した。
「「こんにちわー‼︎」」
1年生が元気に挨拶をする。
「こんにちわ!」
私も負けずと元気な声で挨拶を返し、鞄をロッカーへしまった。
「歌先輩!」
同じトランペットパートの1年生の咲ちゃんが駆けてきた。
「どうしたの?」
「あの、今日私のクラスに転入生が来て…えっと、本宮くんって言うんですけどぜひ、吹奏楽部のトランペットパートに入りたいらしくて…」
顔を真っ赤にして話す咲ちゃん。
「トランペット希望者⁉︎嬉しいな!
じゃ、咲ちゃん楽器準備できたらその子呼んできてあげてくれる?」
すると、はいっと返事して咲ちゃんが去って行った。
本宮くんってことは男の子だよね。
どんな子か気になってきた!
ロッカーの鍵をかけて、自分の楽器を出しに楽器庫へ向かおうとしたら…
「よー。歌」
「え、あ、響?」
後ろから頭に響の腕が乗せられたので、振り向くことができない。
「あ!響聞いてよ‼︎トランペットパートに1年生の男の子が入るみたいなの!」
「……ふーん。」
あれ?興味なしですか。
「…まぁ、なんかあったらいつでも呼べよ?歌さん、ただでさえ男慣れしてないだろうし…」
….ん?今私、心配されてるの?それともからかわれてるの?とっとりあえず、
「ありがとーございます。」
「うわ!感情こもってねぇー‼︎」
お礼はしときました。
響はこう見えて吹奏楽部の部長!
私と同じ歳なのにトロンボーンがプロ並みに上手で、いつも音楽を作ることに一生懸命。
「歌先輩!連れてきました!」
響と楽器の準備をしていると、咲ちゃんがまた顔を真っ赤にして走ってきた。
「わぁ…」
咲ちゃんが真っ赤になる理由が一目でわかった。
「本宮奏斗。トランペット希望です。」
年下なのに響とあまり変わらない背丈、ととのった顔、ほどよく着崩した制服が彼のクールさをもっと引き出していた。
「はじめまして、2年でトランペットの西内歌です!よろしくね!」
ニコッと微笑み挨拶をすると、何故か本宮くんが顔をフッとさけた。
「じゃ、新人くん見れたし俺個人練習してくるわー」
響がトロンボーンと楽譜を持って去っていく。
「うん!またあとでね」
響を見送って、咲ちゃんも個人練習に行ってしまった。
今この部屋には私と本宮くんしかいない。とりあえず本宮くんを連れて楽器庫へ向かった。
「えっと…。はい‼︎これが本宮くんの楽器ね!」
私は引退した3年生のおさがりを渡した。楽器は数が限られているので、このように次の世代へと使い回ししている。
「…あの、」
楽器を受け取った本宮くんが私を見つめて聞いてきた。
「ど、どうしたの?」
もしかしておさがりは嫌だとか⁈
でも、楽器の数には限りがあるし…。
「西内先輩のおさがりは無いですか?」
えっ……‼︎⁉︎
わ、私のおさがり?
…たったしか、私が1年生の時使っていた楽器があるかも。
「う、うん。ちょっと待ってて!」
絶対今顔赤いよ‼︎初めてだよこんな…。
しばらくして、奥の方から懐かしいケースに入った私のお世話になった楽器を見つけた。
「少しホコリ被ってるけど、私が初めて演奏することができた大切なトランペットなの。…こんなのでいいの?」
すると、本宮くんはフワッと笑顔になって
「ありがとうございます。大切にします。」
と言った。
その時胸の辺りがきゅゅぅんとなった。…笑顔なんて反則だよ。
「トランペット、吹いてみてもいいですか?」
「はっはい‼︎どうぞどうぞ!」
考えことをしてたから変な日本語になっちゃった!は、恥ずかしい…。
「西内先輩、すぐ顔赤くなりますね。」
「え。あ、そうかな…?あはは…」
今日会ったばかりの後輩にそんなこといわれるなんて!やば、また頬に熱が溜まってきた。