その女性――自分の母親が電話をし、駆け付けた父親と姉。



 家族4人で医師の説明を聞いた。



 頭を強く打ったことによる記憶喪失。



 説明を両親は一生懸命聞いているけれど、あたしは言葉をただ聞き流す。



 自分のことなのに、まるで他人事のようだった。



 ここにいる自分の家族のことも、自分のこともわからない。



 きっと、“薫”というのが自分の名前なんだろうけど。



 自分がこうなった原因も何も、思い出せない。



 記憶喪失、って、こういうものなんだ。



 と、他人事のように考えていた。