「……で?そこでなんで帰るんだ?
映画のお礼にはクッキーなんかよりも適しているのがあるだろう」



月曜日の朝、電車で須藤先輩と一緒になり、会社へ向かいがてら映画に行ったときのことを話すと、彼女はいつもは死んだ魚のようなその眼をいつになく生き生きと光らせてキリリとした表情で私を見た。



「ず、ずばりそれは!?」



先輩がこんなに生気に満ちてるとこ見たことないよ!と、私はごくりと喉を鳴らす。
どんな妙案かと先輩を見つめていると彼女はピッと人差し指を立てた。



「ズバリ!!『お礼に夕飯一緒にどうですか私作るので』からの家に連れ込んだらわざと酒を朝霞くんにぶっ掛けてシャワー浴びさせたらそこに裸で突っ込んでいくだけだ!後はなんとかなる」



「題して『お礼は私の初めてをあ・げ・る☆』ですね!なるほどー!
……って朝からひっどいですね先輩、二日酔いですか?」



「よく分かったな」



「須藤先輩、酒入ると大体下ネタですからね。今日はまだ全然マイルドな方ですけど」



「まあ、それは置いといてだな。
そのまま帰るなんて随分もったいないことしたな。
せっかく映画まで見たならお茶くらいして帰れば、もう少し一緒にいられたんじゃないか?」



至極真っ当な意見に、私は遠くを見る。
7月最初の月曜日である今日は、いつになく天気が良い。



「こら、現実逃避するんじゃない」