「…美味しいね。明日も作ってくれる?」

俺は好き嫌いが激しい…らしいから。

ピーマンも嫌いだし、ブロッコリーも嫌い。

でも、繰明ちゃんのお弁当のおかずはちゃんと食べれたんだ。

いつも昼は食べないけど…、繰明ちゃんのお弁当なら食べてもいいな、なんて思えた。

「ほ、ホントですかっ?…じゃ、明日も明後日も…毎日作ります」

真っ赤な顔して照れたように…嬉しそうに笑う。

俺の心臓は…激しく波打つ。

…病気とは違う…。

好き。

これは…病気の一種にして欲しい。

薬があればいいのに……。

なんてな。

俺は自分自身に対して自嘲気味に笑った。

「……?」

繰明ちゃんは、俺があの時のことを覚えていないと思っている。

俺が忘れるはずないだろ?

繰明ちゃんが初めての恋だったんだから…。

「繰明っ!」

屋上の扉が勢い良く開いた。

そこには…、

「ユーリ?」

弟の雄李が居た。

俺を見て無表情になる雄李。

繰明ちゃんを見ると………困惑した表情。

「…来ちゃいけんって言っただろ」

「…ユーリ、それはあたしの勝手ちゃうん?…あたしのことやんけ、ユーリが口出しすることないねん」

俺の手をぎゅっと握る小さな手。

こんなに小さくて細い手で…、俺を支えてくれているだと思った。

…離れて行かないで。

こんなこと言える立場じゃない。

そんなこと知ってる。

でも、繰明ちゃんじゃなきゃ、俺は幸せにはなれない気がする。

…繰明ちゃんを幸せにする自信はとことんない。

だって……………………、俺は

『難病』

持ちなんだから…。

「…関係あるから…俺は言ってるんよ?繰明が心配だから…」

雄李は悲しそうにそう言う。

でも、繰明ちゃんは引こうとはしない。

「…関係あっても…、それはいーよ。あたしは宮水さんと居たいから居るんだよ…?」

ぎゅっと更に握ぎられる。

「あたしの未来はあたしが決める。だって、ユーリも自分で決めるでしょ?同じだよ…、あたしは人間。皆人間だよ」

繰明ちゃんは雄李を見て微笑んだ。

「あたしはこの学校のマドンナなんかじゃないよ?…あたしはあたし、弓野繰明だよ」

その瞬間、春風がブワァーと吹いた。

…俺はその瞬間、繰明ちゃんが普通の女の子なんだ…って気が付いた。

俺だって、『王子様』なんかじゃない。

自由だ。

恋してもいーんじゃないか?

相手もそれを知って、俺も相手を知る。

「…繰明」

俺は繰明ちゃんを呼ぶ。

すると、飛び切りの笑顔を向けられた。

「…はい。繰明です。…悠貴先輩」

俺もあの時の…病気じゃない頃の笑顔を…繰明に向けた。