私は、あの日から屋上には行かなくなった。

由宇ちゃんは…気を使って何も聞いては来なかった。

あたしは……沢山の人に気を使わせている。


悠貴先輩、元気にしてますか?

あたしは……全然笑えてません。

毎日、息するので精一杯です。

やたら、男子に変な噂はたてられるばかり…。

前みたいに言い返すことも…出来ないです。

…多分、あの日から何かが壊れちゃいました。

あたしはきっと…あたしに無いものを望んでいただけだったって気づかされました。


「…繰明」

あたしはいつの間にか机をジッと見つめていて…。

あたしは一生懸命笑顔を作る。

その先にいたのは…ユーリだった。

嗚呼、やっぱり兄弟なんだなぁ?

なんて思わされる。

ん?

目元が似てるのかな?

あ、鼻筋が通ってるのは…同じだ。

ユーリの方が、肌が焼けている。

きっと、サッカー部だからだよね?

「…どーしたの?」

「なんで…屋上に最近行かないんだ」

急に…真剣な目で見つめられて…。

あたしは笑うことすら忘れてしまっていた。

「…もうね?逢えないの…。悠貴先輩はあたしなんか…」

ユーリはあたしの言葉を聞いて、眉を顰めた。

そして…遮るように…。



「…兄貴、最近笑ってないんだ…」



悠貴先輩が?

って、何かあったの?

「…繰明、会いに行かないの?」

「…ど、どうしたの?ユーリ…あんなに悠貴先輩のこと良く思ってなかったのに…」

そうだ。

ユーリは悠貴先輩のことを余り好んでない。

「…じゃぁ、今から言うぞ?」

「…?」

ユーリは何を言う気なの?

ユーリは少し顔が赤くなった。

「…俺は、弓野繰明が好きだ。でもな?…弓野繰明を幸せにできるのは兄貴しか居ない。俺は……」

ユーリの言葉が苦しい。

ユーリはしっかりとあたしの目を見る。

周りも……シンと静かになった。

「……俺は、兄貴と居る繰明が好きだったんだ。一生懸命に恋をして…、兄貴に笑って貰おうと…頑張ってる姿に…俺は惚れたんだ」

涙がポタポタと机に落ちる。

なんでよ…。

なんで…なんで、今言うの?

苦しい。

「…ごめん。あたしは…悠貴先輩が好きだよ…。でもね?振られたも同然だった」

嫌われるのは怖かった。

だから、…あの時に逃げ出したんだ。

弱いあたしは…立派に生きる悠貴先輩から…。

「…あたしは、悠貴先輩が幸せならいーや…そう思った。…でも!…あたしは悪魔だ。言葉では言えても…、心は捨てないでって叫んでる」

ほら、あたしは悠貴先輩に釣り合わない。

あたしは醜い。

最低な人間だ。


「…ユーリ、ごめん。あたしはもう…悠貴先輩しか視えてない…」


きっと、あたしはもう悠貴先輩以外に恋することは出来ないと思う。


「…伝えてこい、繰明。この俺を振ったんだ。…繰明は幸せになる番だろ?もう繰明には幸せになる道しかない。どん底からまた這い上がれよ!」

嗚呼、ユーリ。

「…ありがとう」

涙目のユーリの頭を撫でた。

「…幸せになれるかはわからない。でもちゃんと…ユーリみたいに伝えてみたいと思った」

あたしは逃げてただけだった。

嫌われることを恐れてた。

あたしはユーリに今ありったけの笑顔を向ける。

「…あたしもね?ユーリが好きだよ。ホントにありがとう」

あたしはガタッと立ち上がって…屋上に走った。

先輩、待ってて?

今から…あたしの気持ちを伝えに行きます。