あたしは…今、なにされてんの?

目の前には知らない他のクラスの同級生の男の子。

左右はその男の子の腕。

後ろは壁。

目の前には…男の子の顔!

どー言うことよ!

あたしは今の状況がどーしてされてるのか理解出来ない。

あたし、どうなってんの!?

屋上に続く階段。

助けを求めるには、教室は遠過ぎるし…。

…だからって、屋上にいる悠貴先輩を呼ぶ訳にはいかない。

……。

どーする?

あれ?

もしかして、これって最近女子が噂してる人気の『壁ドン』じゃない!?

どこがいーのよ!

嬉しくもなんともないよ!

「話したいこと……あるんじゃ………」

あたしは男の子を覗き込む。

「っ……、俺…弓野さんが好きなんです」

最初はあたしが覗き込んでたことに驚いていたのに、急に真剣な顔。

耳元にゆっくりと近づいて来て、呟かれた。

……好き?

「あ、あのっ…ごめんね?あたし好きな人がいるの」

急に恥ずかしくなって顔が火照ってくる。

「…マドンナに、好きな人?」

不思議そうな顔をする男の子。

「…あたしをなんだと思っているの?」

あたしは訝しげに男の子を見つめる。

「はぁ?この学校のお姫様だろ?ほかになにがあるんだ?」

あたしを嘲笑うように、更に顔を近づいてきた。

「…ち、違うっ!あたしは人間だよ」

あたしは男の子を押し退けようと手を出そうとした瞬間、

あたしの腕をパシリと受け止められた。

「…マドンナは良いご身分だろ?皆にチヤホヤされてさぁ?」

腕を壁に押し付けられる。

ニヤニヤと気味の悪い笑いする男の子。

「…マドンナになりたくてなった訳じゃ無いよ!あたしは弓野繰明だよ!他にあるの!?」

あたしは涙目で男の子に問いかける。

「…何?弓野さんにはマドンナにお姫様、高嶺の花なんて異名もあるんだ。ほら沢山でてきたよ」

あたしには……飾りの名前しか、憶えて貰えないの?

あたしは…皆にいつも………。

「あたしは……普通じゃないの?」

涙が知らぬ間に溢れ出てきた。

「うーん?普通じゃないだろ?お姫様だしな」

あたしは…お姫様?

あたしは……王子様を待つことしか出来ないお姫様なの?

「…家来になりたい。あたし家来でも木でもなんでもいーよ…」

「…そーやって、身分の低い奴を馬鹿にしてんだろ?」

……なんで、なんで信じてくれないの?

あたしはあたしでしょ?

人生は自分で決めるんだよ?

あぁ、あたしにはこんな人生しか残されてないのかな…。

「………ゆ、き…せ、ぱい」

悠貴先輩、ホントのあたしを見てくれてますか?

どうやってアナタの前に映っていますか?

「………離してくれない?」

「えっ?」

あたしは驚きで男の子の後ろに視線をやる。

「…悠貴先輩」

悠貴先輩はあたしにチラリと視線を向けた後、男の子をジッと見つめる。

「お、王子様の登場ですか?」

嫌味ったらしくそう言う男の子。

「……あぁ、お前からしたらそうじゃないか?悪役君」

無表情の悠貴先輩は、静かに男の子を見下ろす。

「せ、先輩?」

あたしの言葉には耳を傾けてくれない様子。

「……お姫様だから、助けに来たんだろ?王子様の役目で」

「案外ロマンチストだな。俺は繰明を助けに来たんだ。他にあるの?」

「お姫様の弓野さんに、王子様の宮水先輩。ほらお似合いじゃないですか、そうやって俺には見向きもしないで」

「…してるじゃないか。これからだろ?人生あっと言う間だからって急がなくてもいーよ。…勝手に異名を付けられて…俺には勝手な人生は作れない」

「そ、そんなことないよ!悠貴先輩には決まった道なんてないよ?だって…悠貴先輩はわからない道を頑張って進んでるよ…」

悠貴先輩は驚いた様にあたしを見る。

「…そんな先輩にあたしは毎回心から救われてます。だから…自分で勝手に決め込んだら駄目ですよ?」