「…七瀬さん、泣かないでください」
「……」
「じゃないとなんか俺が泣かせたみたいな感じがするじゃないですか」
そっちの心配かよ
「…泣いてません」
「ボロボロ泣いてるじゃないですか」
「…」
「それでもビーカーを洗う手はやめないんですね。さすがです」
「…洗い終わりました」
「しかも早い」
泣き顔をあんまり人に見せたくない
早く帰ろう
「七瀬さん」
呼び止められた
「なんでしょうか」
「また、手伝いに来てくれませんか?」
「…まあ、いいです」
「あと」
先生は
私の頭を優しく撫でた
「溜め込まないでくださいよ。特に思春期なんですから」
私は
「…っ」
「?あの、顔…真っ赤…」
「ま、真っ赤じゃあひません!」
噛んだ
「ふふっ…」
先生が笑った
笑顔だ。
目も、濁ってない。綺麗な茶色だ
「…先生、が、笑った」
「俺だって笑いますよ」
「目が死んでたもん」
「あーそれはそうかもしれませんね」
「…じゃあ、もう帰りますね」
「ん。また明日」
理科室のドアを閉める
「っあぁ…」
その日は、何故かほわっとした気持ちでばかりいた。

