時間的に、この電車にハルは乗っているだろう。

ドッドッ、と心臓がやけにうるさくなってきた。蝉の声と同じくらい騒がしく響く。
次々に改札から出てくる人の群れがなんだか見ていられなくなって、私は目を伏せた。

その時、雑踏の中から私の名前を呼ぶ声が、はっきりと聞こえた。

「―・・・陽子!」

 一瞬、世界に私とハルだけしかいないような錯覚に陥った。
しんとして、あなたの声しか聞こえないような。
そんな。

はっと顔を上げると、改札から出たばかりのハルが見えた。

淡いグリーンの七分袖シャツにカットソー、チノパン。
初めて見た私服姿は、形容するならかっこいい、としか言いようがなかった。

ハルは私と目が合うと、ほっとしたように笑ってこちらへ近づいてきた。

「おはよう。待たせてごめんな」

「・・・あ、いや、大丈夫だよ。おはよう」

ハルのかっこいい光線に当てられていた私は、ぼんやりしながら返事を返した。

「じゃあ行きますか!」
「うんっ!」

眩しい太陽をバックに、私たちは映画館へ向かって歩き出した。
今日はとても素敵な日になる予感がする。
理由は彼が隣にいるから、それだけだ。