年上の人には敬語を使いたいからとせっかくの言葉を断ると、少しの沈黙が訪れる。ガチガチに緊張している私を受話器越しに察知しているのか、空渡さんは落ち着いたトーンで話を振ってくれた。



「佐藤さんは大学生でしたよね。何年生ですか?」

「えっと、1年です!19歳です。あの、空渡さんはおいくつなんですか?」

「僕は36ですよ。佐藤さんみたいな若い子からしたら、僕っておじさんなのかな?」



受話器の向こうから苦笑が聞こえ、慌てて「そんなことないです!」と叫んだ。空渡さんはびっくりしたようですぐには反応がなかったけど、やがて受話器から「……ありがとう」と小さな声がした。

見えないと分かっているのにこぼれる笑顔。ようやく緊張が取れてきた私。せっかくの機会だ。今の内に色々聞いてしまおう、と思った。



 ──好きなアーティストやお互いの日常について話している内に、いつの間にか一時間以上が経っていた。

そろそろ寝ないとお肌に悪いし、明日に響く。私は断りを入れて、「また電話しましょうね」と言って電話を切った。



……緊張した。だけど、とても幸せな時間だった。その日私は、とても穏やかな眠りについた。