そうこうしている内に電車が出発した。高天さんは私に「じゃあ」と言って、運転手さんの隣に待機する。後ろ姿もかっこいい……なんて私が思ってること、高天さんは知らないだろうな。

乗車中はずっと、高天さんの後ろ姿を眺めていた。駅で停車すると、高天さんは運転手の人と言葉を交わすために隣に顔を向ける。その横顔を、私はチラチラと見つめる。何度かそれを繰り返している内に、自分が降りる駅へと電車が到着した。

下車直前、高天さんをチラリと視界に映す。一瞬だけ目が合って……高天さんが微かに笑ってくれたような気がした。



「──お帰り陽富。ライブは楽しかった?」



 家に着くと、お母さんが笑顔で出迎えてくれた。「うん!すっごい楽しかったよ!!」と答えると、お母さんは口の端を優しく上げて「そう、良かったわね」と笑った。

私は頷いて、荷物を置きに自分の部屋へと向かった。明日の準備もしなくてはならない。忙しい一週間がまた始まる。

不意に手元の袋の中のポスターとCDを見つめた。これと、大好きなロックのCD聴いて頑張ろう。学校も……恋も。



息をついて、部屋のドアを開ける。新しい世界が訪れたような気がした。