「行ってきまーす!」

 昨日とは打って変わって、いつもの調子が戻った私は勢いよく玄関を出た。家の中からは三人の「行ってらっしゃーい!!」という声。それに背中を押されるように、足取りも軽く歩き出した。



 ──駅に着くと、私はまっすぐ窓口に向かった。「あのぉ…」と声をかけると、こっちを見たのは椅子に座っている強面のお兄さん。

……一瞬、体が硬直した。同時に浮かんだのは、“声かけなきゃ良かった…”という後悔の気持ちだった。



「はい、どうしました?」

彼の口から出たのは、意外にも優しい声色。私は少しだけ安心して、再び口を開いた。



「あの、定期を失くしたと思ってたんですけど見つかりました。迷惑かけて本当にすみませんでした!」

窓口の台におでこをぶつけそうになる程頭を下げると、私はお兄さんの顔をそっと窺った。するとお兄さんは、嫌な顔一つせずにこう言ったのだった。



「……良かったですね!」

驚いて顔を上げる。真顔の時とは違って、笑うと優しそうだ。ちょっとだけ、かっこいいなと思った。



 私はお兄さんに見送られてから電車に乗り、学校に向かった。朝から良い気分になれて、小さく笑みをこぼした。