「日向?」姫花が心配そうな眼で日向を見上げた

そんな姫花の頬を片手でつつみ、笑う日向

そんな日向をみる周囲

「別に隠すつもりはなかったんだけどね・・」と日向は姫花の隣に座った

皆、日向の次の言葉を待っているかのようで、グラスの中で氷が解ける音だけ聞こえた

「簡単に言えば、自分の音が出せなくなったんだ・・スランプってやつ?で、こっちに逃げてきた・・ ガクのところに転がり込んだのは、姫の入院とのタイミングが重なったのもあったし、ガクは余計なことまで詮索してこないのも分かってた・・自分にとって都合がよかったんだ。でも、姫と一緒に過ごすうちに、無性にバイオリンが恋しくなった・・ そう思えるようになったのは本当に久しぶりだよ・・最近は、地下の防音室でたまに弾いていたんだ・・」と日向は姫花の髪をなでながら続けた

「なんでスランプになったのか・・突然だったから自分でも明確な答えはわからない・・でも、姫花が隣にいてくれたから、そこから抜け出せたと思っているんだ」と日向は姫花を見て、おでこにキスを落とした

「・・・・・」

「日向・・真剣に聞いてたのに・・」とガクは妹と公開キスをした日向に背を向け、カウンターの中にいるアリの方を見た

潤也と賢次は、いつもの日向についても、神路日向についても何も知らなくて、突然現れて、姫花をかっさらったくらいに思っていたので、日向にとって、姫花の存在がどんなものか突きつけられたようで、何も言えなかった

姫花は、日向が苦しんでいる事に気がつかなかった自分が嫌で俯いた

日向はそんな姫花に気づいたのか・・

「姫が隣にいてくれたから、また弾けるようになったんだ。姫がいてくれれば、俺はこの先ずっと、弾き続けられるような気がするよ」と微笑んだ