それから誰かに恋をすることはなかったし、あの時みたいにドキッと心臓が跳ね上がることもなかった


姫花は鈍感なんかじゃないから、自分に気がある空気を持った異性は意識して距離を置いてきた

もちろん、賢次や潤也、大吾に龍馬は男なんだけど、異性として意識した目で見たことはなかった

だから、姫花は賢次と潤也の想いに気がつくことはなかった

姫花にとって4人は、特別な位置にいたし、その4人は誰が上でも下でもなく同じ位置だったから・・

そんな時に現れた日向

アニキの親友という立場の彼は、姫花が警戒心を持つこともなく、自然に姫花の隣にいた

もちろん、最初の頃のバラの花束を毎日贈って来た時は警戒はしたけど・・

そして、姫花の心にスッと入ってきていた

夏休みも、日向と過ごした時間は心地よかった

そして、一緒にランチを食べ、水族館に行って 『日向さんと過ごす時間は心地いい』と改めて実感した姫花だった

家に戻ってきたのは夕刻だった

「姫ちゃんどうする? この魚さばいて夕飯の準備する?」

日向先輩はバイオリン弾く大切な手なのに、そんなのはお構いなしに台所に立とうとする

「日向先輩!料理しないでくださいって何回言えばいいんですか!」

「そんなに神経質にならなくていいよ。 でも、いつも気を使ってくれてありがとうね」と微笑む日向

「はぁ・・ 本当に日向先輩って・・」とため息を吐く姫花

「でも、姫ちゃん魚捌けるの?」

「えっ!?」

料理は得意な姫花、秋刀魚とか鯵とかなら料理教室で一通り習ったから出来る・・

でも、今日飼ってきたのは、真鯛とタコ・・・

どっちも無理・・・ イカならできるけど・・タコなんて触ったこともない・・

それ以前に、蛸はまだ生きていた・・・

「・・・・・・・・」

何も言い出さない姫花に

「ね? 俺がやるからさ!」

とエプロンを手にする日向