ねぇ、先生。


「あぁ…すぐ戻って来るから。」

シロは何か気づいたかもしれない。だけどやっぱり聞いてこなかった。

「…そ、分かった」

人がほとんどいなくなった教室や廊下。

歩くと足音が響いた。


美術準備室に行くのは何週間ぶりだろう。最後に行ったのはいつだっけ。

忘れてしまうくらい前だった?

幸い今日は美術部の活動がない木曜日。だけど、誰が見てるか分からないから前よりもずっと気をつけた。


先生がここに来て、7ヶ月。

この7ヶ月が高校に入学してから一番濃い時間だった気がする。

正直特別楽しいわけでもなかった高校生活が、こんなに一変するなんて思ってもみなかった。

全部先生のおかげ。

美術準備室に行くようになって、学校に行くために早起きすることも、退屈な授業も耐えられた。

放課後になれば先生に会えるんだって思えば、いくら嫌な授業が続いてたって学校に行こうって思えたの。

もう数ヶ月で卒業してしまうんだから、今のうちにここにいる先生の姿を目に焼き付けておきたかったの。