「だから…そんな顔して先生のこと誘惑すんのやめて。」

グルンッとあたしから視線をそらして、いつも通り筆を手にとった。

誘惑?してないよ、先生。

あたしそんな顔出来ないもん。


「あーもう…今日は描けない」

「えっ、ごめんね?」

「ん、茉央ちゃんじゃなくて俺の問題」

なかなか進まない絵。描き始めてどれくらい経っただろう。

大きなキャンバスだし、先生にとって大切な絵だからこんなの当たり前なのかもしれない。

だけど、あたしは誰の絵なのかすごく気になって仕方ない。


「あ、アイスありがと」

「ううん、熱中症になったら大変だもん。また買ってくるよ」

だけどまぁ、こんな風に先生の笑顔を見られるならもう少し時間をかけて描いてもいいかな、なんて思った。

待ってるから。誰の絵でも、これは茉央ちゃんのために描いたんだって言っていつもみたいに笑ってね。