もうここへは来ない。

先生のことを考えるのも今日で終わり。

全部、今日で終わりだ。


「…ですよね…変なこと言ってすいませんでした。あたし、先戻ってます」

こんなことを言う間も、あたしは先生の顔を見ることができない。

何も言わない先生が言葉を発する前に立ち上がって準備室を出る。


美術室にしかない木の椅子も、絵の具の独特な匂いも、先生が大きなキャンバスに絵を描いてる姿も、忘れよう。

コンビニでの先生の姿も。ビターのチョコレートとブラックコーヒーが好きなことも、忘れるんだ。


「あぁ……もう…っ」

美術室を出ると涙が止まらなかった。

ポスターで顔を覆う。

もっと早く終わらせるべきだった。

辛くなる前にやめておけばよかった。

もしかしたらって、何?

あるわけないじゃない、そんなの。