[完]Dear…~愛のうた~

名前を呼ぶとビクッと体を反応させて
恐る恐る顔を覆う手を降ろして俺を見た。

「隆……」

初めて見せてくれた顔には
たくさんの涙でぐちゃぐちゃになったメイクと
目を真っ赤に充血させていた。

「ずっと、ここで泣いてたの?」
「……うん」

杏ちゃんは俺から目を逸らして下を向いた。

「みんな、心配してるよ?」
「……でも、私……実彩に酷いことした……」

そういうと杏ちゃんは再び涙を流し始めた。

「聞いたよ、ゆかりんに」
「……っ……最低でしょ?
実彩が苦しむことわかってあんなこと言ったの。
実彩は私を信用してて、
実彩の過去だって知ってるのに……
傷をえぐるみたいに実彩のこと傷つけた」

俺はそんな杏ちゃんを見ながら
杏ちゃんの隣に座った。

「私ね、ただ実彩が羨ましかったの。
あんなに隆に大事にされて……
なのに、実彩が自分とも向き合わないで
隆を拒絶するのが凄い嫌だったの。
……だって、私にはそんな人いないから。
しかも、自分のことばっかで何も周りを見てない。
まぁ、それはある意味実彩のいいところだけど、
ゆかりんだけが負担になってる気がして、
ちょっと喝を入れようと思っただけなのに……
さすがに、言いすぎだよ……
わかってる、実彩が過去に怯えてるってことは。
でも、……もっと自分を好きになって欲しかった。
ただそれだけなのに……」

杏ちゃんは頭を抱えて泣いている。

そんな杏ちゃんの話を
ただ黙って聞いてあげることしか出来なかった。

「ねぇ、隆は何があっても実彩から離れないよね?」
「……え?」

杏ちゃんは俺の目を見て真剣に話す。

「うん、俺は離れるつもりないけど」
「もし、実彩の過去を聞いても?」

実彩の過去……その言葉に体が反応した。
実彩の過去はどんなに壮絶だったのか
俺は何も知らない。

けど……

「俺は、今の実彩が好きだから。
過去の実彩は気にしない。
というより、そういう過去があって
今の実彩がいるんだから。
過去がどうあろうと、
実彩を好きなことには何も変わりない」

俺が実彩を好きなのは、事実だから……