ゆかりんに話し終わると
私の体は尋常じゃないくらい震え出す。

「ごめんね、思い出させちゃって……」

ゆかりんは一緒に泣いてくれて
私をそっと包み込んでくれる。

その事にもビクッと体が反応してこわばる。

「ごめんね……
みーちゃんがこんなつらい思いしてる
なんて思わなかった」
「大丈夫なの……もう大丈夫だから……」

そういうとゆかりんは冷え切った
私の体に毛布を掛けてくれた。

「ありがと……」

ゆかりんは優しく笑ってティッシュで涙を拭いた。

「みーちゃん、聞きづらいんだけどさ……」
「……ん?何?」
「傷、まだ残ってる?」

ゆかりんは申し訳なさそうに
私の手をギュッと握る。

「ううん、すぐ杏奈が病院に
連れて行ってくれたから
腕にあの時深くつけられた薄い傷一個しか
残ってないよ?
それより、前のマネージャーのほうが
たくさんつけてるから」

するとゆかりんは顔を歪めた。

「その傷……見せて?」

私は腕を捲って二の腕にある傷を見せた。

「……!!
これ……結構深くない!?」
「そう?
でも昔釘に引っかかったって言ってれば
何のこともならない傷だよ?」
「ならいいけど……」

それからゆかりんは服のポケットから
何かを取り出した。

「これ、隆が実彩にって……」

差し出したのは私が自販機で
買おうとしてたホットカフェオレ。

「……え?」
「あの時2個買ったから一個やるって」

私はそっとゆかりんの手から
それを受け取って両手で包んだ。

それはもう2時間以上時間が経っているのに
暖かくて……

「隆ね、みーちゃんの手と
このカフェオレずっと握り締めて
みーちゃんが起きるの待っててくれてたんだよ?」

その言葉に涙が出てきた。

そっとカフェオレを回転させるとそこには……

“元気になれよ?
また一緒に話そうぜ?”

マジックの綺麗な右上がりの字で
力強くそう書かれていた。

「バカ……」

あんな突き放し方したのに……
なんでこんなに優しいの?

もう過去に向き合ってないとか
変な言い訳出来ないじゃん……

「優しいね、本当に……」

私はその字を親指でそっとなぞると
カフェオレを手に持って、部屋を飛び出した。