「実彩……?」

俺は不信と不安を抱えながらも急いで曲がり角までやって来た。

そこには……

「……え?」

俺は思わず目を見開いた。

「いい大人が何やってるの?こんなことして楽しい?恥を知りなさい」

実彩が低い声で話しかける。

その話しかけている相手は……深いキャップにマスク、全身黒で覆われている長身で細いいかにも怪しい不審な男。

その手にはピンクの高級ブランドバッグが握ってあり、その後ろには実彩と男を見て腰を抜かして倒れている若い女の人がいた。

そして実彩は男の前に立ち、男の握っているバッグと男の腕を力強く逃げないように掴んでいた。

「返しなさいよ?それあなたのじゃないでしょ?」

だが、男は何も動かない。

「お金がなくて困ってるの?それともこういうのがおもしろくてやっているの?でもどちらにせよこれは犯罪。やってはいけないことくらいわかってるでしょ?」

実彩は真っ直ぐ男を下から見ている。

「……だよ……」

男がいきなり何かを呟き始めた。

「え?何?」
「お前に何がわかるんだよ!!」

そう言って男はナイフをポケットから取り出した。

その瞬間周りがキャーキャーと騒がしくなる。

でも実彩はそんなこと恐れなかった。

「いいわよ?それで気が済むなら刺しなさいよ」
「おい、実彩!!」

そんな無神経なこと言われると俺も黙ってられない。

でもどうやら男は気が収まらないらしい。

「あ″ーーーーーーー!!」
「実彩逃げろ!!」

俺と男の声が重なった時

ーシュッ……

嫌なくらい綺麗な鈍い音が俺の耳に響く。