[完]Dear…~愛のうた~

どれくらい沈黙が流れただろうか……

「隆弘やめて……やめよ?こんなことするの」

実彩の泣きそうな震える声で俺は思わず腕の力を緩める。

ゆっくり実彩を見てみると下を向いて気まずそうにしている。

「……ごめん」
「大丈夫、気にしないくていいから」

そう言って実彩はサングラスを取って俺の目を真剣に見た。

「隆弘に何があったのかは知らない。けれど、私は隆弘が私をこんなことして幸せになってるとは思えない」

実彩の言っていることは正しい。

けれど、俺は正しいと思いたくないんだ。

俺の行動は俺も実彩も幸せである行動にしたかったから。

「隆弘あんまり考え過ぎないで。私のことはもうほっといて。大丈夫だから。気にしてないしさ。変な誤解だってしない。だって隆弘も私も……ただの仕事上の仲間だからさ」

俺がさっき言った言葉を丸々返されると苦しくなる。

実彩が俺に感情を持ってないことなんて知ってる。

けれど、そのまま言われるのはやっぱりかなりのショックだった。

「じゃあね、また明日」

実彩は無表情のままサングラスをかけてそのまま俺の横を通り過ぎて行った。

俺はそんな実彩の凛とした後ろ姿をただ眺めることしか出来なかった。

だか人生何があるかわからない。

実彩が角を曲がった時、事は起きてしまった。

「いやーーーーーーー!!」

凄まじい女の人の声が実彩の曲がった方面から聞こえた。

その悲鳴に驚きながらも内心少し安心していた。

だってそれは実彩の声ではなかったから。

実彩はもっと声が高い。

それに歌手だからもっと声に迫力があるはずだ。

でもそう思ったのもつかの間。

「ちょっと!!あなた待ちなさい!!」

綺麗な透き通るような声がその奥から聞こえてきた。

その声は、間違いなく実彩の声だった。