彼女はピクッと体を反応させてチラッとこちらを向いた。

あの輪郭は実彩だ……

そう思って足を進めた瞬間……

ーダッ……

実彩はその場から猛ダッシュで俺から逃げた。

……なんで、逃げんだよ……

疲れるだろ……

なんて思いながらもさすがにダンスをやってる実彩でも俺より運動出来ないからすぐ追いついて実彩の腕を掴んだ。

「待てよ」

その声で実彩は息を切らしてそのまま止まる。

「なんで、追いか、けて、来たの?」
「なんで逃げ、んだよ」
「それ、質問の、答えに、なってないよ」

そんな会話がおもしろくて二人で笑い合う。

「疲れた、ちょっと休む……」

そう言って実彩はその場でしゃがみ込む。

「俺のほうが疲れてるし」
「私達運動不足だね、ダンスはやってるのに」

なんて実彩の冗談に俺達の空気は和やかになる。

なんだ、いつも通りじゃん……

なんて思ったのはつかの間。

「で、なんで追いかけてきたの?」

息が整った実彩は理由が知りたいような顔をして俺にズバッと聞いてきた。

別に深い理由はないんだけど……

ただ、キミに誤解されたくなかっただけ。

「実彩なんか今日変だなーと思って」

けど、俺はなかなか素直になれない頑固者だ。

「ん?でも隆弘も今日変だったよね?」

まぁ、そう返されてあたりまえだろうね。

同じこと実彩に言われたし……

「ま、いいや。隆弘が元に戻ってよかったよ。私はなんでもないから。ちょっと今日体調悪いだけだから心配しないで?」

無理して笑ってるのはわかってる。

体調悪いのもあるかもしれないけど一番は俺に言われた言葉が気になってるんだろ?

だから何となく俺から逃げたのも気まずそうにしてるのもわかるんだよ。

俺だって、あんなこと実彩に言われたら凄いショックを受けるだろう。

たとえそれが本当に恋愛対象として見てないとしても。

だから何も弱音吐かない実彩は凄いと思う。

そこが他の人と違うところなんだと思う。

きっと俺はそういう強く生きようとしている姿にも惚れたんだと思う。

けれど……

「じゃ、またね」

言葉一つでその場の雰囲気と態度が変わってしまうんだ。