[完]Dear…~愛のうた~

そして眩しい部屋の中心に立つ大きな人物。

顔は見えないけど、明らかに大きな存在なのは
ここからでもはっきりとわかる。

彼はこちらに背を向けて立ち窓の外を見ていた。

何だか、その様子は私に気づいていないような
雰囲気も出していて少し怖くなってきた。

そして、彼に歩み寄ろうと
一歩足を踏み出そうとした瞬間……

「名前のない~この気持ちを~どう伝えればいいのか~」

私は思わず体の動きを止めて耳をすませる。

「キミはずっと~笑ってくれると~信じていたはずなのに~」

生で聞く久しぶりの歌声に
私の体は熱を持っている。

「僕はきっと~弱い人物さ~
愛するものも~守れないなんて~」

ヘッドホンで聞くより確かにいい歌声に
私は黙って涙を流していた。

「もう~こんな資格なんてないのに
どうしてだろうか~
頭に浮かぶのは~キミの笑顔だけさ~ぁ~」

もう我慢出来なくなって
そのまま走って彼に抱きつく。

久しぶりに感じた彼の体温は
なぜか涙が倍増する程温かかった。

「キミの為に~何が出来るかな~ぁ~
僕はまた~キミの手を握ることは~
出来るのでしょうか
こんなにも後悔するだけなら~
もっともっと愛せばよかったね~ぇ~
僕の心は~いつも同じさ~
いつまでもキミを探してる~ぅ~」

もう何も出来なくて力いっぱい
彼に回す腕を巻きつける。

ねぇ、どうしてこんな時に声は出てくれないの?

大事なことをどうして伝えれないの……?

もう、こんな生活嫌だ……

一瞬だけでもいいから、お願い……声出て?

そんな思いと同時に私は一気に解放されて
彼と目線がしっかりと合う。

何を言われるかビクビクしていると……

「泣くな……」

そう言って私の涙を拭いながら
そっと優しく微笑んだ。

その優しさに負けて私はまた彼の胸に顔をうずめる。

あぁ、もう何も止められない。

ただ、この時間が止まればいいのに。